佐賀藩第11代藩主・鍋島直大(なおひろ)が愛用していた懐中時計が現在、佐賀藩主・侯爵鍋島家伝来品の歴史博物館「徴古館」(佐賀市松原2)で公開されている。
幕末~昭和初期の佐賀藩士・久米邦武が、雑誌「佐賀」の「故侯爵鍋島直大公追悼号」に記した内容によると、直大は「時計に付(つい)ては専門家も及ばぬ巧者であった」とされる時計愛好家で、多数の時計コレクションを所有していたという。今回公開している懐中時計もコレクションの一環で、横浜の在日商館「コロン商会」によって1887(明治20)年ごろ、日本人向けに製造された。直大亡き後、懐中時計は歴代の鍋島家当主に受け継がれたが、現当主の鍋島直晶(なおまさ)さんが同館に収蔵品として提供し、公開が実現した。
懐中時計は直径5.3センチ、重さ141グラム。外装は18金製で、ふたの表面中央に直大公のトレードマーク「花菱紋(はなびしもん)」が描かれている。上部の提げ環には懐中時計を組みひもに通すための鍔(つば)が付いていたり、直大公が自身の名前と時計の製造番号を記載した自筆のメモがふたの内側に貼られていたりと、直大公が時計を使っていた当時を想像させる部分もある。
主任学芸員の池田三紗さんによると、「当時は珍しい機構だった」という、時刻を3種類の音によって知らせる「ミニッツリピーター」が内蔵されているほか、懐中時計はぜんまい切れによって止まることはあっても、破損などによって止まることはなかったという。「メンテナンスを施しながら、100年以上の時を経て今も美しさと正確さを保つ時計を見ると、直大公はじめ歴代当主たちの時計への思いが感じられる」と池田さん。時計が動く様子は館内で、ミニッツリピーターが動く様子は同館のユーチューブで公開している。
池田さんは「佐賀藩最後の当主である直大公の愛用品が極めて良い状態で現在に伝わっているのは、かなり貴重なこと。美しさや機構はもちろん、直大公がどのような気持ちでこの時計を使っていたか、どれだけこの時計を愛していたかにも思いをはせて鑑賞してもらえれば」と話す。
開館時間は9時30分~16時(入館は15時40分まで)。入館料は300円(中学生以下無料)。月曜休館(月曜が祝日の場合は翌日休館)。11月24日まで。