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【私の「○○愛」vol.1】佐賀県庁企画課 円城寺雄介さんの「歴史愛」

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本人が「大好きだ」という江藤新平に関する明治~大正時代の古書を手にする円城寺雄介さん

 佐賀の地で、災害復興や大河ドラマ関係イベントなどジャンルを問わず活躍する、一人の熱血公務員がいる。佐賀県庁政策部企画課の円城寺雄介さんだ。

 2001年に入庁した円城寺さん。土木、金融、人事を経て2011年には医務課で県内すべての救急車にiPadを、2014年には同課でドクターヘリ導入を実現させた。

 2016年には政策部政策課へ。現在は同企画課で「独立機動遊軍」として、熊本地震の災害支援やNHK大河ドラマとの連携イベント、救命ドローン活用に始まり、今年9月30日に開催されたNHK大河ドラマ『真田丸』ファンによるオリジナルイベント「カロフェスin TOKYO 2018」に佐賀県からネット中継で参加するなど、幅広く活動している。

 円城寺さんに「活動の原動力は?」と尋ねると、「歴史への愛」という答えが返ってきた。聞けばそのルーツは10代の頃にさかのぼり、形を少しずつ変えながら今もずっと続いているそうだ。今回は、県庁の熱血職員・円城寺さんの歴史愛に迫ります。


円城寺さんが手がけ2017年年末に開催した、正月時代劇『風雲児たち』プレミアムトークショーの一場面

 円城寺さんが歴史に興味を抱いたきっかけは、中学時代に発売されたシミュレーションゲーム「三国志」と「信長の野望」だという。プレイしていくにつれて各キャラクターたちの戦闘力や魅力といったパラメータの違いに気付き、「元ネタ」となる史実を調べようと思ったのが始まりだったそうだ。

 高校時代には父の本棚にあった吉川英治の「三国志」を読み、歴史への愛をいっそう深めた。「ただ毎日を送っていた高校時代の自分にとって、天下国家や己の正義のため命を燃やす『三国志』の登場人物たちは心躍る存在だった」と円城寺さん。その歴史愛は同級生と歴史を担当していた当時の担任教師(のちに佐賀を代表する歴史家・大園隆二郎先生)の3人で「社会研究部」という歴史関係の部活を立ち上げるまでに熱く燃え上がった。

 大学に進学してからは「提督の決断」というシミュレーションゲームで新たな気付きを得た。歴史における「敗者」の心だ。「これまでは信長や曹操のような、歴史における『勝者』の側からしか歴史を学んでいなかった。太平洋戦争で『敗者』となった当時の日本について知るうちに、勝者だけが歴史のすべてではないと気付いた」と円城寺さん。

 その後は戦国時代の明智光秀や石田三成、幕末の吉田松陰や勝海舟など「時代の波に翻弄されつつも組織や社会の中で懸命に生き抜いた」人物に興味を持ち、現在では戦国時代の肥前国大名・龍造寺隆信と、佐賀藩出身で明治政府の初代司法卿(現在の法務大臣)・江藤新平に愛を注いでいるという。


円城寺さんが集めた歴史関係の書籍たち。幕末を中心に、戦国時代や太平洋戦争の頃のものまで幅広い

 円城寺さんは、歴史を「人生の教科書」だと話す。県内すべての救急車へのiPad導入やドクターヘリの運航を実現を目指した時は、前例がないだけに周囲の反対も多く、くじけそうになったという。そのとき彼を支えたのが佐賀出身の偉人・大隈重信だ。

 「大隈もかつて日本初の鉄道を敷設しようと企画書を出したときに、西郷隆盛と大久保利通の2人に『資金の無駄だ』『何の役に立つか分からないものに協力はできない』と反対された。当時の政府のツートップに反対されたら、普通は諦めるもの。しかし大隈は『どうしたら西郷らを説得できるか』ではなく『どうしたら西郷らに関係なく鉄道を作れるか』に焦点を当て、鉄道敷設を成功させた」と円城寺さん。その大隈の姿を見ると、自分自身も「どうしたら目的を達成できるのか」と大局に立った視点で考えることができるようになったという。

 ほかにも佐賀藩10代藩主・鍋島直正のオランダ船にも自ら乗り込み海外を知る「現場第一主義」の姿勢から「自ら現場に乗り込み学ぶ」自身の仕事スタイルを確立。2016年の大河ドラマ「真田丸」を始め、2017年正月時代劇「風雲児たち」の関連イベントにもそれを活かしたという。


佐賀で今年9月に開催した「国際忍者学会」では、肥前夢街道の「忍者」たちと自前の甲冑に身を固めた

 円城寺さんは自身の今後について「自身の歴史好きを活かしもっと佐賀を盛り上げていきたい」と話す。その筆頭となるのが2018年大河ドラマ「西郷どん」関連イベントの開催だ。本作品で江藤新平を演じる俳優・迫田孝也さんを10月20日開催の「さが維新まつり」に招待、「テレビで観る前に佐賀の人にはひと足先に生の江藤新平を観てもらいたい」と、作中の江藤の姿でステージイベントや「明かりの空間演出」点灯式のほか、祭りのメインとなる「さが維新行列」の復路にも参加してもらう予定という。

 また、自身が愛する佐賀の歴史の発信にも積極的で「佐賀は自身が好きな江藤や龍造寺をはじめ、ドラマチックな物語を持つ人物がいるにもかかわらず、県外はもちろん県内でも注目されていないのはもったいない。小説や漫画、アニメ、そして大河ドラマなどにしたくなるような魅力を伝えていきたい」と意欲を見せる。

 「ゆくゆくは最新テクノロジーを活かして、佐賀から『宇宙進出』も進めたい。『宇宙なんて佐賀には荷が重い』と言う人もいるが、絶対にかなえたいと思っている。幕末に江戸幕府だ藩だと周囲が騒ぐなか、1人日本の外に広がる世界を見ていた鍋島直正公のように、大局的な視点で佐賀から世の中を変えていければ」とも。

 歴史を追い熱く心を燃やした少年は「大人」になり、県庁職員になった今も変わらない。

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