「佐賀市地域雇用創造協議会」最終年度に向けて
提供:佐賀市地域雇用創造協議会 制作:佐賀経済新聞編集部
ベトナム・ホーチミン市が本社で、企業からソフトウェアやモバイルアプリの開発を受託する「Citynow Asia(シティナウ・アジア)」。同社は昨年3月、佐賀市と佐賀大学との3者で進出協定を締結し、大学内に「佐賀オフィス」を開設した。社長のPhan Tuan Tai(ファン・トゥアン・タイ)さんは、日本に8年間の留学の後、日本のIT企業に4年間勤務、ゲームやモバイルアプリなど開発経験し2016年にホーチミン市と東京都内に会社設立した。ベトナムで若いIT技術者を育成し、高めた技術や人材を日本など海外への展開を目指す中で、2018年からベトナム国家大学ホーチミン市校と佐賀大学が交流を重ねてきたことをきっかけに昨年6月、佐賀大学理工学部内に「佐賀オフィス」を設立した。
「Citynow Asia」佐賀オフィスの木村吉孝さん
「Citynow Asia」佐賀オフィスに今年4月から勤務する木村吉孝さん。大学から佐賀を離れた木村さんは、兵庫県内の塾で長く先生をしていたが、地元に戻ることを決め、昨年夏から佐賀で転職活動を行っていた。当初はこれまでの経験を生かし、佐賀でも塾の先生に就くことを考えていたが、将来、実家の農業をAI化させたいと、ウェブ開発に直接関われる会社を希望するようになっていた。
求職活動の過程で佐賀市地域雇用創造協議会主催の「IT企業見学バスツアー」に参加し、佐賀市内IT企業の開発現場見学や社員との意見交換を通じて、ますます熱意が高まる木村さん。しかし、未経験でエンジニアを希望するには木村さんの年齢がネックとなり、「営業職なら」と内定をもらった地元IT企業もあったが、「直接開発に関われる会社を」と諦めることが出来なかった。
そこで、一度エントリーメールを送って返事がなかったという「Citynow Asia」に改めて連絡したところ、ファン社長と佐賀で直接思いを伝えるチャンスに恵まれ、「将来の話で盛り上がり、意気投合した」(木村さん)ことで入社を決めることが出来た。木村さんは「佐賀が好きで帰ってきた。自分が納得した人生を送るため、自分が今後目指す方向に重なる『Citynow Asia』で仕事ができることが本当に嬉しい。今後、佐賀とベトナムの交流をさらに活発になるような貢献をしていきたい」と話す。
「Citynow Asia」佐賀オフィス・木村吉孝さんの勤務の様子
佐賀市は、水稲やノリ養殖など一次産業とともに佐賀県の県庁所在地としての商業機能を有するが、若者や女性を中心とした市外への転出や市外就職率は高い水準となっていることから、同市は近年、佐賀県などとIT企業の成長支援や誘致に取り組んできた。この結果、最先端技術に挑戦する企業の立地や誘致につながるようになってきたという。地元企業でも、AIやIoTなどの活用に挑戦するIT企業や、事業規模を拡大する企業が出てきており、雇用の場が増えつつあるという。しかし、IT産業は知識集約型という性質上、就業のためのトレーニングが不可欠なため、従事者数の増加に繋がっておらず、担い手が不足する状態が続いている。
人材面の課題の克服が就業機会の拡大と、就業人口流出の抑制にも繋げることが出来ることから、佐賀のIT企業のニーズに応じた人材育成や地元IT企業の採用力向上、テクノロジーの利活用を促すセミナーなどを行い、これに合わせて先端技術の1つである「MR(複合現実)」を使ったコンテンツビジネスを新たに生み出し、さらなる雇用創出を図るため、佐賀市は厚生労働省が募集する「実践型地域雇用創造事業」に応募。2018(平成30)年度の第2次募集で採択を受け、同年12月、事業実施のための団体「佐賀市地域雇用創造協議会」を設立し、2021年3月までを事業期限とし、働くチャンスを広げる活動を行っている。
「佐賀市地域雇用創造協議会」が実施するプレゼンテーションスキルアップセミナー
「佐賀発!地方都市の『つながり』を活かしたICT雇用創出プロジェクト」という事業タイトルで様々なプログラムを実施する「佐賀市地域雇用創造協議会」。「雇用拡大」「人材育成」「就職促進」「実践」の4つの柱(メニュー)で事業を行っている。
(1) 雇用拡大メニュー
・IT企業の人事担当者などに対して採用力向上に関するセミナー
・佐賀市内企業の経営者や部門長などを対象にした「AI導入」に関する初歩的なセミナー
・佐賀市内企業の「EC活用」を通じて雇用機会の創出・拡大を目指すセミナー
・「AI(人工知能)」「IoT(モノのインターネット)」「VR(仮想現実)」「MR(複合現実)」など最先端テクノロジーにチャレンジする佐賀市内のIT企業の活用事例を他業種経営層へ紹介するセミナー
・フルタイムでの就業が困難な方の雇用機会の創出・拡大を図るため、企業に対して行う「テレワーカー」人材獲得研修
(2) 人材育成メニュー
・ホワイトカラーの業務を自動化する「RPA」(ロボティックプロセスオートメーション)の基礎研修→スキルアップ、待遇改善、転職などのキャリアアップにつなげる
・プログラマーやデザイナー向けの「プレゼンテーション」スキルアップセミナー
・デザインツールやウェブの知識などを学ぶ「クリエィティブ人材育成」と就業支援講座
・フルタイムでの就業が困難な方の就業支援のための「テレワーカー」研修
・求職者向けに「AI」「IoT」「VR」「MR」など、佐賀市内企業の取り組みを知ってもらい、地元就職を促進するセミナー
佐賀市内のIT企業を1日で複数社訪問し、社内見学する「佐賀IT企業見学バスツアー」
(3) 就職促進メニュー
・ITクリエィティブ関係企業の就職マッチング相談会
・IT企業やITで事業を支えている企業など1日数社回る少人数制の職場見学ツアー
・事業者向けプログラムに参加した企業が求職者向けプログラムに参加した方に提供を創出する「テレワークインターンシップ
(4) 実践(MRコンテンツ開発事業)メニュー
・歴史やイベント、特産品などに着目した佐賀らしいMRコンテンツを制作、MR技術を活用した雇用創出を目指す事業
佐賀市からの誘致を含む市内IT企業の事業内容をアピールする場として開催した「佐賀×IT=新しいシゴト この指とまれ相談会」
これら事業を進めるにあたっては、佐賀市や佐賀県、佐賀大学、佐賀商工会議所、佐賀県ソフトウエア協同組合、ジョブカフェSAGAと連携、「マイクロソフトAI&イノベーションセンター佐賀」を活用するなど、市内の関係する機関が連携して、企業ニーズに応じた人材育成と新たな雇用機会創出を目指している。
「佐賀市地域雇用創造協議会」事業推進員・リーダーの石井賢治さんは「協議会が実施するセミナーは初歩的なものが多く、IT企業が求めるスキルレベルには遠いところもあるが、求職者の窓口を広く、わかりやすい内容で訴求し、セミナーや研修への参加をより促すようにと工夫している。様々な職種を経験している方や就職への考え方を持っている人が集まる研修を通じて、IT企業への就職を目指して積極的になっていく方もいる」と話す。
サブリーダーの平松秀美さんは「私たちが企画する求職者向けセミナーには20代~60代と幅広い年代の方に参加してもらっており、『働きたい』という熱意を持ってセミナーを受講される方が非常に多い。子育て中のママなどが約1カ月、ワードやエクセル、オフィス365などの使い方などのカリキュラムを通じて、テレワークのマインドセットを学び、就職につながった方も多い。『再就職に向けてどんなことが出来るか』を考えている方もいて、逆に私たちが勉強させられることもある。受講者の中には、就職が決まった後も、就職先での仕事の状況などを連絡くださる方もいて、私たちとしても心強く感じる」と話す。
「佐賀市地域雇用創造協議会」事業推進員の打ち合わせの様子
協議会がこれまでの事業期間の1年4カ月で実施した各種セミナーやイベントを通じて、雇用や就職につながった人数は目標を大きく上回る成果を出しているという。石井さんは「再就職に向けて悩みを持つ方や、就職活動のゴールが見えなくて辛くなっている方を見かけることもあるが、研修などで求職者や我々スタッフと話をすることで、気持ちが和らいだり、モチベーションアップにつながったり、という人もいた。今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で具体的なセミナースケジュールをお知らせできないでいるが、IT企業への就職や転職を希望される方は今年度ぜひ、当協議会が企画するセミナーやイベントに参加してほしい」と話す。
(右から)「佐賀市地域雇用創造協議会」事業推進員・リーダーの石井賢治さん、サブリーダーの平松秀美さん
地域資源を活用して雇用を創出する目的で厚生労働省が募集する「実践型地域雇用創造事業」の平成30年度採択地域(第2次募集)に佐賀市への採択を受け設立した実施団体。ICT雇用創出を目的に様々なセミナーや研修を2021年3月まで実施していきます。