歴史演劇ユニット「幕末・維新 佐賀の八賢人おもてなし隊」による「賢人ジュニアスペシャル公演」が3月29日、佐賀城本丸歴史館(佐賀市城内2)で開催された。
歴史寸劇「もぐら打ち」で、幼い大隈重信と大木喬任が枝吉家の前でもぐら打ちをするシーン
2012(平成24)年9月から毎週日曜に1日5回、江戸末期から明治期にかけて活躍した佐賀の偉人にまつわる歴史寸劇を披露している同隊。昨年10月から今年2月は通常公演に加え、隔週開催のウオーキングイベント「八賢人とまちあるき」も開催した。
「賢人ジュニア」は同隊代表の青柳達也さんが、佐賀の子どもたちに地元の歴史や文化について演劇を通じて知ってもらい、同隊の「未来の担い手」を育成したいと昨年3月に企画、メンバーを募集した。昨年5月の公開オーディションを経てメンバーを決定。その後は毎週1~2回のレッスンを重ね、中向一歩(かずほ)さん、稲富雄仁さん、坂本煌也(こうや)さん、姫野真護さんの4人が本番に臨んだ。
当日は新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、同館屋外の御玄関(おげんかん)横のスペースでマスク着用での上演となったが、全5回の公演にはいずれも30人ほどの観客が集まり、距離をあけてベンチや石段に腰かけたり、立ち見で観覧したりして、「賢人ジュニア」たちの晴れ舞台を温かく見守った。
1回目・3回目・5回目は、中向さんが島義勇役、稲富さんが枝吉神陽役で出演する「おないとし」を上演した。同作品は、18歳の枝吉神陽、島義勇、佐野常民の出会いと、それぞれが「何者かになる」ためにもがきながら道を見いだしていく姿を描く。ユーモアを交えて3人の出会いを描く前半と、英国が清に攻め入ったとの知らせを受け、3人がそれぞれに国の将来を思い生きざまを模索する後半に、観客はくぎ付けになっていた。観劇後、客たちは「出演する3人の演技に引きつけられた」「演目の前半と後半でガラッと空気感が変わって、ジュニアメンバーというのも忘れ見入ってしまった」と話していた。
2回目・4回目の公演は今回に合わせて書き下ろした新作で、坂本さんが大木喬任(たかとう)、姫野さんが大隈重信の幼少期を演じる「もぐら打ち」を上演。同作品は、幼い大木喬任と大隈重信が、正月行事「もぐら打ち」で訪ねた枝吉家で、枝吉神陽と彼の下に訪れた島義勇と出会い、「もぐらも人も、みんなが豊かに生きるにはどうすればよいか」と一緒に考える姿を描く。言いたいことを気後れせず口に出し、島にも遠慮なく突っかかる大隈と、枝吉に促されながら自分の意見を少しずつ言葉にしていく大木。正反対の2人の姿に、会場は温かな雰囲気に包まれていた。ほかにも、幼い大隈と本気で追いかけ合いをする島に笑いが起きたほか、大木を一人の「若い武士」として認め、共に考えを巡らす枝吉の姿にファンが視線を注いでいた。
坂本さんは「いつもは家でゲームをしていることが多いため、外で寸劇をやって、役になりきって思いきりはしゃいだのが楽しかった。今日の自分の出来は100億点」と笑顔を見せる。姫野さんは「ちゃんと今日のために練習してきてよかった。もうちょっとセリフをゆっくりはっきり言えたらもっとよかったが、やりきった気持ちが大きいし、お客さんに笑ってもらえたのがとてもうれしかった」と振り返る。
稲富さんは「最後の上演を終えた後のアンケートに『全部の回を見ていたが、回を重ねるごとに枝吉に近づいていてよかった』というコメントを見つけて、自分の中での及第点はとれたかなと思えた。観客を巻き込み、会場全体が一体化して進める『おもてなし隊』の寸劇は、学ぶこともたくさんある。これから『ジュニア』として学んだことを、ほかの演劇の舞台でも生かしていきたいと思えた一日だった」と話す。
中向さんは「演じ終えて真っ先に感じたのは『やりきった』という達成感と、張りつめていた気分が解けての空腹感。今日の自分に点数を付けるなら100点満点。演劇は通常『完成』が無いものだが、今日は『今の自分のなかで完成された』最高の演技ができたと思っている」と笑顔を見せる。
青柳さんは「人前で演じることも話すことも苦手だった子どもたちが、1年間のレッスンを通じて段々と気後れすることなく話し、演じるようになっていくのを見て、成長を感じた。それぞれの個性を舞台で生かすにはどう指導すればよいか悩むこともあったが、レッスンを重ねるごとに子どもたちも演技について積極的に意見を伝えてくれるようになり、一緒に乗り越えたような気分。子どもたちにとって学ぶ事も多く、やりがいのある活動になると思う。小学4年生から高校3年生の男子で興味がある方はぜひ参加してほしい」と呼び掛ける。